日本と海外のM&Aを比較すると、M&Aの実情や背景、特性などに少し違いが見られます。今後、日本国内でもM&Aが盛んに行われる可能性はあるので、海外のM&Aについて理解しておくと、その知識が今後のプランに活かされることもあるでしょう。
そこで今回は、日本と海外のM&Aの違いについてご紹介していきます。
アメリカでは、ロー・スクールやビジネス・スクールといった人材育成機関が非常に充実しており、M&Aに関しての理論や考え方をしっかりと学ぶことができます。そのため、そこで学んだ人たちが若い段階で現場に入ってもすぐに活躍することができ、ダイナミックなM&Aが行われています。売買されるビジネスの数は年間60万社以上、M&Aは経済の活性化に貢献し、多くの企業家を生み出しています。
ビジネスにおいて「スピード感」を重視するアメリカでは、ゼロから新規事業をスタートさせることはほとんどなく、M&Aを活用し、リスクの低い経営をする方法が一般的です。M&Aでビジネスをスタートさせれば、ビジネスの基盤となる顧客や事業に精通した従業員などを、最初から手に入れることができます。
アメリカでは、80%以上の事業が5年以内に廃業しているとされていますが、M&Aにより既存事業を買収して事業をスタートした場合には、廃業に至る確率は「15%に抑えられる」という調査結果があります。このように、M&Aは企業家にとって低リスクで事業を開始するための有効な手段となっており、どんな小さなビジネスでもアメリカではM&Aの対象となっています。
さらに、出口戦略を考える上でも、M&Aには大きなメリットがあります。アメリカでは、企業のオーナーが事業環境の変化などにより、現在の事業から撤退しようと考える際にもM&Aを活用します。オーナーは撤退時に少しでも多くのキャピタルゲインを得られるように企業価値の向上を図り、より良い条件で新しい経営者に事業を承継しようと考えます。
アメリカにおいては、M&Aで多くのキャピタルゲインを得られるほど魅力のある事業に育て上げた経営者は「ビジネスの成功者」として、周囲から尊敬を集める存在となっています。
中国のM&A市場は、大きく成長を続けています。中国企業はまさに今をチャンスととらえ、海外企業のM&Aを積極的に行っており、中華人民共和国商務部の発表によれば、2014年の対外直接投資額は約1,400億米ドル、このうち約850億米ドル超が海外企業のM&Aに使われているとの調査結果も出ています。膨大な人口を背景に急成長する国内市場、中国政府による制度改革や方針策定にも後押しされ、中国のM&A市場は今後ますます大きくなっていくと考えられています。
1994年に中国で為替制度が施行されて以降、中国の元は日本の円に対して上昇し続けています。この元高円安を背景とした中国人観光客による「爆買い」が流行語にもなりましたが、M&Aでも中国企業による日本企業の買収が進んでいます。
2009年を例に挙げると、
などのM&Aが成約しています。中国企業は日本の技術やノウハウを吸収して成長を加速させたいと考え、日本企業は中国の資金と市場により事業を再生するといった、お互いにメリットあるM&Aが行われています。
さらに自動車の分野では、グローバル企業のM&Aが行われています。中国市場は世界トップの販売台数を誇る有望な市場であり、今後も市場規模は拡大していくと考えられています。そのため、中国企業による自動車メーカーの買収も積極的に行われており、こちらも2009年を例に挙げると、
などの動きが見られました。
これらのM&Aも、中国企業は各自動車メーカーの技術に、経営難に陥った自動車メーカーは中国企業の資金と市場に期待した結果、生じた現象であると言えます。
最近では大手企業のM&Aの話がよく聞かれますが、1999年以前の日本ではほとんどM&Aは行われていませんでした。以前の日本企業の基本的な考え方は、ゼロから作り上げて成長させてゆく「グリーンフィールド投資」が主要な経営戦略でした。
そのため、M&Aにより事業をスタートさせる、M&Aにより事業を拡大・成長させるといった戦略は日本人にはあまりなじみのない経営戦略だったのです。しかし、1997年に銀行の破たんが社会的問題となり、日本経済がマイナス成長に陥ると状況は一変します。
M&Aを行いやすくなる制度改革が行われ、財務情報の時価会計が導入されるなど、会計基準の変更も行われることによって、M&Aへの注目度も高まってきました。2005年頃にはM&Aの仲介企業が増え、金融機関でもM&A専門の部門が発足するなど、M&Aを促進するための環境整備が整ってきました。
このように大型のM&Aが進む一方で、中小企業など比較的小規模な事業のM&A案件は、日本では浸透していない現状があります。M&A市場での取引額でみると、1億円以下のM&Aはプレイヤーがまだ少なく、認知度も低い状況にとどまっています。
事業売却を検討したいと考える企業の半数が、事業売却に抵抗感を持っているともいわれており、アメリカに比べるとM&Aが一般的な経営戦略として受け入れられていない現状と言えます。
日本では一般にM&Aと聞くと、「敵対的買収や乗っ取り」「経営不振」などのネガティブなイメージが持たれがちです。また、M&Aが単なる「マネーゲーム」として誤解されているケースも見られます。
さらに、M&Aに興味がある経営者でも、「M&Aが自社でできるとは思えない」「経営責任の放棄ととられる」など、行動を起こす前にイメージや感情面でM&Aを避けてしまっているケースは珍しくありません。これらが、海外に比べてM&Aが浸透しない要因でしょう。
このような現状の背景となっているのが、M&Aに精通した人材の不足であると考えられます。日本でも今後、M&A人材の充実とともに、M&Aに対する間違ったイメージや誤解もなくなっていく可能性はあります。しかし、特に小規模な事業においては、自前でM&A人材を用意することが難しい現状もあり、アウトソーシングを視野に入れたM&Aの手法も検討する必要性があるでしょう。
今回は、日本と海外のM&Aの違いについてご紹介してきました。
海外に比べ日本ではなじみの薄いM&Aですが、効果的に行うことができれば、企業の有効な経営戦略になり得ます。日本でも、M&Aを促進する環境が整いつつあるので、今後浸透する可能性は十分に考えられるでしょう。
M&A – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/M%26A
第4章 米国におけるM&Aの動向
http://www.esri.go.jp/jp/prj/mer/houkoku/0405-04.pdf
あなたがアメリカでM&Aをしないといけない5つの理由 – Stellar RiskStellar
http://www.stellarrisk.com/ja/%E3%81%82%E3%81%AA%E3%81%9F%E3%81%8C%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%81%A7ma%E3%82%92%E3%81%97%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%91%E3%81%AA%E3%81%84%EF%BC%95%E3%81%A4%E3%81%AE/
世界のM&A事情 ~中国~|サービス:M&A|デロイト トーマツ
http://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/mergers-and-acquisitions/articles/world-ma-08-china-20151225.html
自動車販売台数速報 中国 2015年 – マークラインズ 自動車産業ポータル
https://www.marklines.com/ja/statistics/flash_sales/salesfig_china_2015
中国家電量販店が買収したラオックス、外国人向け免税店にモ… – Record
http://www.recordchina.co.jp/a79887.html
中国企業の日本買い急増 技術・ノウハウの吸収狙う 朝日新聞
http://www.asahi.com/business/topics/economy/TKY201002280317.html
ボルボ・カーズ- Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%AB%E3%83%9C%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%82%BA
サーブ・オートモービル- Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%93%E3%83%AB
日本のM&A。その潮流を問う-早稲田大学・宮島英昭教授 … – M&A Online
https://maonline.jp/articles/miyajima0055
カネはあるけれど人がいない! 日本のM&A事情:日経ビジネスオンライン
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20150306/278310/?P=4
第3節 事業売却による中小企業の承継にかかる論点 – 中小企業庁
http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h18/H18_hakusyo/h18/html/i3230000.html
メニューを閉じる