株式譲渡は、公的機関を通して行うものではないため、その手続きには基本的にチェック機能が働きません。そのため自己責任で行うことになりますが、法令に則らない株式譲渡は無効になる可能性もあるので注意が必要です。
また、株式譲渡は事業承継のために行われるケースもあります。このようなケースでは、株式を譲渡することで経営権とともに、会社の資産や負債、契約なども渡すことになります。
このように、株式譲渡には会社譲渡という意味も含まれるため、厳正に行われる必要がありますが、プロセスを理解すれば個々の手続きは難しいものではありません。ここでは、株式譲渡の手続きについてご説明します。
まず初めに、譲渡したい株式が「譲渡制限株式」であるか否かについて確認します。
「譲渡制限株式」とは、会社の承認がなくては自由に譲渡ができないという制限が定められた株式のことです。会社の承認を得ずに譲渡制限株式の譲渡手続きを行ったとしても、その効力を会社に対して主張できないため、その後の手続きが滞ってしまいます。
確認方法は、定款や登記事項証明書に「譲渡制限株式」である旨が記載されているかどうかで容易に判断できますが、譲渡制限の有無によって譲渡手続きの手順が異なります。
譲渡した株式が譲渡制限株式であるか否かを確認し、
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ここでは、譲渡制限株式の譲渡手順についてご説明します。譲渡制限は、会社に不利益な第三者による株式取得を防ぐことができるため、特に中小企業ではこのケースに当てはまることが多いと考えられます。
株主は、譲渡制限株式について譲渡の承認を請求します。「株式譲渡承認請求書」として、「譲渡する株式の種類と株数」、「譲受人の氏名・名称」を明示して会社に提出します。また、必要であれば請求書上に「譲渡が承認されない場合には、会社または指定買取人による買い取りを請求する旨」を併記しておきます。
買い取り請求の意思表示をすることで、請求書に記した相手への譲渡が承認されなくても、会社または指定買取人に買い取ってもらえるため、譲渡したいという希望自体は叶えられます。ただし、請求書上に指定した相手に限って譲渡したいという気持ちがあり、それ以外の相手には譲渡したくないという場合は、買い取り請求を併記する必要はありません。
株式譲渡承認請求を受けた会社は、承認機関において承認の可否を審議します。
承認機関は、取締役会が設置されている会社であるかどうかによって異なります。定款に承認機関が定められている場合はその定めに従いますが、原則として、取締役会設置会社の承認機関は取締役会、取締役非設置会社の承認機関は株主総会となります。
そのため、承認機関である取締役会や株主総会の開催に向けて、招集権者が招集通知を行います。そして、開催された取締役会あるいは株主総会において、株式譲渡を承認すべきどうかが審議され、その内容・経緯・決定が議事録に記載されます。
承認機関において承認が可決されるか否決されるかによって、その後の手順が異なります。
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承認機関において、株式譲渡の承認が可決された場合の手順についてご説明します。事業承継の手段としての株式譲渡では、このケースに当てはまることが多いと考えられます。
株式譲渡が承認されると、会社から承認請求者に対してその旨が通知されます。
株主が承認を請求してから通知されるまでの期間は2週間以内と定められていますが、その期間が経過しても、承認あるいは非承認の通知がされない場合は、株式譲渡が承認されたものとみなすことができます。会社によっては、定款でこの期間を2週間よりも短く定めていることもあり、その場合は定款の期限を過ぎた時点で同様の扱いとなります。
承認通知を受けた承認請求者は、株式譲渡人として譲受人との間で株式譲渡契約を締結します。売買価格は、当事者間で合意できてさえいれば、自由に決定して構いません。適正な売却価格とかけ離れた高額で譲渡することも、無償で譲渡することもできます。
譲渡する株式が株券発行会社の株式である場合には、譲渡人は譲受人に対して株券を交付します。株券の交付がないままでは、株式譲渡の効力が発生しないため注意が必要です。
株券発行会社であるか否かは、定款や登記事項証明書に「株券を発行する旨」の記載があるかどうかで判断できます。
株式譲渡契約は当事者間では有効ですが、この契約を締結したというだけでは、当事者以外の第三者に対して、譲受人が株式を取得したことを主張することはできません。
そのため、譲渡人と譲受人が共同で、会社に株主名簿の書き換えを請求します。万が一、株式の二重譲渡があった場合には、株主名簿が書き換えられた順番で優劣が判断されるため、契約締結後は速やかに株主名簿の書き換えを完了することが大切です。
株主名簿の書き換え完了後、株式譲受人は会社に対して株式名簿記載事項証明書の交付を請求します。株式名簿記載事項証明書とは、譲受人の氏名、住所、株式保有数などが記載された書面に、会社の代表取締役が署名もしくは記名押印したもので、この証明書によって譲受人が株主であることを証明することができます。
ただし、株券発行会社の株式を譲受した場合には、株式名簿記載事項証明書の交付請求は必要ありません。株券のある株式は、譲受の際に譲受人から株券が交付されているはずであり、株券を持っていることで株主であると推定されるためです。
【手順その3】で述べた株式譲渡の承認が、承認機関において否決された場合には、次の【手順その4】から【手順その10】でご説明する手続きが必要です。
株式譲渡を承認しないことが決定した場合、会社は速やかにその旨を承認請求者に通知します。たとえ承認機関の決定が不承認であったとしても、その通知がされないままに2週間が経過した時には、株式譲渡を承認したものとみなすことができます。
株式譲渡承認の請求書に、「譲渡が承認されない場合には、会社または指定買取人による買い取りを請求する旨」が記されていた場合には、会社は譲渡不承認の通知をした日から一定期間内(期間は【手順その7】に後述)に、承認請求者に対して買い取りに関する通知を行わなければなりません。
この通知期間を過ぎても会社あるいは指定買取人から通知がなされない場合には、株式譲渡を承認したものとみなすことができます。そのため、会社あるいは指定買取人は、次の【手順その5】から【手順その7】までを期間内に行う必要があります。
株式譲渡の承認請求者から「不承認時の買い取り請求」を受けていた会社が、承認機関によって株式譲渡の不承認を決定する場合は、会社自らが買い取るのか、指定買取人を指定して買い取るのか、あるいは会社と指定買取人が共同で買い取るのかを選択し、その手続きへと進む必要があります。
指定買取人の指定も含め、誰が買い取るのかについての決定は、株式譲渡の不承認決定と同じく承認機関が行います。つまり、取締役会設置会社では取締役会、取締役会非設置会社では株主総会の決議が必要です。
承認機関の決定により、会社が対象株式を買い取る場合には、株主総会で決議を得なければなりません。そのため、承認機関が株主総会であるケースでは、株式譲渡の承認が否決された議場において決議を行うことができますが、承認機関が取締役会であるケースでは、改めて株主総会を開催する必要があります。
株主総会では、「会社が株式を買い取る旨」および「会社が買い取る株式の数」が議案となりますが、これらは特別決議が必要な議案です。【手順その3】で述べた「株式譲渡承認」についての議案は普通決議で良いため、定足数を満たした上で出席株主の議決権の過半数が決議要件ですが、特別決議では定足数を満たした上で、出席株主の議決権の3分の2以上が決議要件です。
会社あるいは指定買取人は、株主に対する買い取りの通知を行う前に、買取価格相当額を会社の本店所在地の供託所に供託します。買取価格相当額とは、「一株当たりの純資産額」に「買い取る株式数」を乗じることで求められます。
そして、会社が買い取る場合には、不承認通知から40日以内に供託を証明する書面を交付した上で、「会社が買い取る旨」と「買い取る株式の数」を会社が通知します。一方、指定買取人が株式を買い取る場合には、不承認通知から10日以内に供託を証明する書面を交付した上で、「指定買取人として指定された旨」と「買い取る株式の数」を指定買取人が通知します。
なお、どちらの通知期間も定款で短縮されている場合があるため、正確には定款の確認が必要です。
買い取り対象の株式について株券が発行されている場合、株主は買い取りに向けて株券を供託する必要があります。つまり、株券発行会社の株式を買い取ってもらう場合は、このケースに該当するということです。
供託を行うタイミングは、会社あるいは指定買取人から買い取りの通知とともに、買取価格相当額が供託されたことを証明する書面を受けた日から1週間以内です。そして、株券の供託後は速やかに会社に対してその旨を通知します。
もし、株券の供託を行わないままで1週間が過ぎてしまった場合、会社あるいは指定買取人は売買契約を解除することができます。このようなケースでは、契約解除をもって譲渡が承認されたとみなされることはありません。
会社あるいは指定買取人が買い取りの通知を受けた後、株主と会社あるいは指定買取人との間で株式の売買価格について協議を行います。
協議を行っても合意に至らない場合には、裁判所に対して「株式売買価格決定の申立て」を行うことができます。裁判所への申立ては、株主側からでも会社や指定買取人側からでも行うことができますが、裁判所による決定を望むのであれば、買い取りの通知から20日以内に申立てを行う必要があります。
申立てを行わずに20日間が過ぎた場合には、会社あるいは指定買取人が行った供託額が売買価格として認められます。ただし、供託金を受け取るためには、会社あるいは指定買取人から、協議が合意に至らなかったことの証明書を出してもらう必要があります。
裁判所に株式売買価格決定の申立てを行うと、最終的には裁判所が売買価格を決定します。しかし、その決定の前に和解が成立する可能性もあります。
申立てを受けた裁判所は、審問の期日を開き、関係者の主張を聴いてくれます。その上で、幾つかの算定方法を組み合わせたり、専門家の意見を聴いたりしながら適正価格を算定し、審理の過程で和解が促されることも少なくありません。
それでも和解が成立しない場合には、裁判所が決定を下すことになります。決定には2週間の抗告期間が設けられているため、決定された売買価格に不服がある場合には、期間内に抗告します。抗告せずに2週間が過ぎれば、裁判所の決定に従って売買価格が確定します。
譲渡制限が定められていない株式を譲渡する場合についてご説明します。
このケースでは、譲渡制限株式のように会社の承認を受ける必要はなく、自由に譲渡ができます。手続きとしては、譲渡制限株式が承認された後の手順と共通するため、「ケース(1)譲渡制限株式を譲渡する場合」の「ケース(A)株式譲渡が承認された場合」で述べた【手順その5】から【手順その7】までを参考に手続きを行えば、譲渡を完了することができます。
株式を譲渡したいと思った時、対象の株式に譲渡制限が定められているか否か、また、譲渡制限株式である場合に譲渡が承認されるか否かによって手続きが異なります。このようにプロセスが枝分かれするため、非常に複雑な手続きであるように思われますが、自分のケースに該当する部分に絞れば理解しやすいものです。
ただし、手続きの過程では期限が設けられている手順もあるため、スムーズに進めることが求められます。期限に遅れて手続きが頓挫することのないよう、事前に流れを把握しておくことが大切です。
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