M&Aは成功事例ばかりではなく、中には思わぬところで失敗してしまうケースも見られます。ただし、失敗には必ず何かしらの原因があり、事前にどのような失敗のリスクがあるのかを把握しておくことで、ある程度のリスクは回避することができます。
そこで今回は、M&Aにおける10の失敗事例をご紹介していきます。自社のケースに当てはめながら、どのようなリスク対策を用意するべきなのか考えていきましょう。
M&Aにおいては、売り手と買い手の希望条件が異なるケースは珍しくありません。売り手としては多くの資金を得る必要がありますし、買い手としてはコストを極力抑えることが重要になるので、この現象は当然とも言えます。
したがって、お互いが合意できるように歩み寄って交渉を進めることになりますが、どちらかが成約直前に「合理性のない条件変更」を申し出ると、それを伝えられた側は変更に向けた十分な準備期間を設けることができないので、M&Aが失敗に終わる可能性が高まります。
合理性のない条件変更の具体例としては、
などが挙げられるでしょう。特に譲渡価格については、両社ともに敏感にならざるを得ない部分となるので、直前の条件変更は可能な限り避ける必要があります。
株式譲渡や株式交換など、株式のやり取りでM&Aを行うケースでは、売り手側がきちんと株券・株主名簿を整備しておく必要があります。株券・株主名簿が未整備の状態では、M&Aが成約して株式を譲渡する段階でつまずいてしまう恐れがあるためです。
中小企業にありがちなのが、株券と株主に関する情報が記録されておらず、経営者が記憶しているだけの状態となっているケースです。そのような状態では、経営が後継者に移った時に株式の実態が分からなくなってしまいますし、経営者が誤って記憶している恐れもあるでしょう。
したがって、M&Aの売り手側は事前に調査を行い、自社の株式の実態をしっかりとデータとして残しておくことが大切になります。
議事録はM&Aの買い手側にとって、売り手側の株式の動向などをチェックする重要な書類となります。議事録を整備していない企業は、役員登記の手続きを正規に行っていない可能性があるので、未整備というだけで信用を大きく落としかねません。
そのため、
の2つの書類に関しては、必ず前もって整備をしておくようにしましょう。未整備の状態が長期間続いている場合は、司法書士などの専門家に相談することが望ましいです。直近3期分の議事録を整備しておけば、議事録の部分で不備が生じるようなことはないでしょう。
簿外債務とは、貸借対照表に記載されていない債務のことを指します。M&Aの買い手にとって、簿外債務は深刻なリスクになり得る存在であり、優先的に簿外債務の有無を調査する企業も珍しくありません。
会計操作による簿外債務のように、悪意のある簿外債務をつくり出すと、もちろん売り手の信用はなくなります。また、保証やデリバティブに関する債務など、悪意のない簿外債務についても、売り手側はつくり出すべきではありません。
たとえ悪意がなかったとしても、簿外債務がある事実は買い手にとって変わりません。簿外債務によってM&Aが破談をしてしまう恐れもあるので、簿外債務には細心の注意を払うようにしましょう。
不誠実な対応が望ましくないのは、売り手・買い手の双方に言えることです。売り手に関して言えば、当初の希望条件が満たされないからと言って、情報の提供を渋ったり、直前に条件変更を持ちかけたりするべきではありません。M&Aの検討に必要な情報を全て提供し、条件に不満があれば前もって買い手やM&Aアドバイザーに伝えておくべきでしょう。
買い手に関しても、誠実に売り手に対応することが求められます。買収資金を出すのは買い手側ですが、M&Aはあくまでも双方の合意によって成約するので、資金を出すからと言って不誠実な対応をするべきではないでしょう。
特に買い手が注意するべきなのは、引き継ぐ資産や事業、従業員などの扱い方です。成約前は別々の組織ですが、成約後にはスムーズに経営統合しなければ「シナジー効果」を期待できないので、アフターM&Aを見据えて準備を進めておく必要があります。
M&Aは経営戦略のひとつなので、より理想に近い形を目指すことは大切です。しかし、完璧主義にこだわり過ぎると、売り手・買い手ともに大きなチャンスを逃してしまう恐れがあります。
例えば、中には市場規模や事業を拡大させるのに適した対象企業がいるのにも関わらず、その企業の事業内容が若干希望から外れているだけで、買収を見送る買い手側の企業が見られます。また、売り手側に関しても、「希望金額に若干届かなかった」「買い手の成約後の方針が希望通りではない」などの理由で、成約を見送る企業は存在することでしょう。
しかし、それ以上のチャンスを見つけることは、現実的に難しいかもしれません。M&Aに向けて行動した結果、多くの時間とコストがかかっただけで、大きなメリットを得られなかったといった事態を避けるために、自社が妥協できるポイントも見つけておくと良いでしょう。
M&Aの成約までにかかる期間は、一般的に3ヶ月~12ヶ月とされています。決して短い期間とは言えないので、成約までの間に売り手側の業績が大幅に悪化する可能性もゼロではありません。業績が悪化した結果、顧客も取引先も失ってしまえば、買い手側も大きなダメージを受けることになります。
したがって、経営者はM&Aの進行中にも、本業に注力する必要があるでしょう。M&Aアドバイザーに任せられる部分は任せ、自身はM&Aの成約と経営を両立させる必要があります。
コンプライアンスとは、「法令遵守」のことを指します。コンプライアンス違反を犯すと、訴訟や行政処分などのトラブルに発展する可能性があり、企業の健全性が失われてしまいます。その結果、取引先や顧客などが離れ、業績が大きく悪化する恐れもあるでしょう。
現代社会においては、コンプライアンスは企業が存続するために必要不可欠な要素とされています。この部分については、売り手側・買い手側の双方が注意を払うべきであり、会計処理や営業活動などさまざまな分野において、法令を確実に遵守する必要があります。
チェンジ・オブ・コントロール条項とは、M&Aによって経営権が移動した場合に、ある契約の内容に影響を及ぼす条項のことです。この条項に抵触すると、M&Aの成約後に事業を計画通りに進められない恐れがあります。
特に注意するべきなのは、売り手側と取引先、売り手側と顧客などとの間で交わされている契約です。経営権が移動することで、契約内容によっては契約そのものが破棄されてしまうケースもあります。契約破棄となると、買い手側は本来得られるはずであった取引先・顧客を失ってしまい、経営に大きなダメージが残ります。
したがって、売り手側は現在締結している契約内容を、細かく確認しておく必要があるでしょう。
売り手側・買い手側の経営者が合意していても、株主や役員の承諾を得られなければ、M&Aをスムーズに実現できない可能性があります。株主や役員の意思不統一が、交渉を進める前に判明していれば大きな問題とはなりませんが、交渉の途中で判明すると、相手方に大きな負担をかけてしまう恐れがあるでしょう。
したがって、株主や役員の意思確認は、早いタイミングで行っておくべきです。
M&Aを検討している場合、成功事例からコツを理解することも大切ですが、失敗事例からリスクへの対策を検討することも重要となります。今回ご紹介した失敗事例を参考に、まずは何をするべきなのか優先順位をつけて、効率的に行動することを心がけましょう。
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