M&Aが成約すると、売り手側・買い手側ともに環境や状況が大きく変わります。成約後に適切な行動を取るためには、M&Aによって「何が変わるのか、何が変わらないのか」を明確に理解しておく必要があるでしょう。
そこで今回は、M&Aの成約後に気になる5つの点について、どのように変化するのか具体的に解説していきます。
役員貸付金とは、企業(法人)が役員に対して貸し付けている資金のことを指します。中小企業においては、多くのケースで「役員=経営者」となるでしょう。
この役員貸付⾦の扱いについては、M&Aの企業売却に伴って返済されるケースが一般的です。また、買い手に対して役員貸付金が「債権」として売却されるケースも見られます。
銀行借り入れについては、売り手側の企業(債務者)と銀行(債権者)の2者の問題であるため、M&Aによって株主が変わったとしても、債務者と債権者の関係性が変化することはありません。ただし、売り手側の株主である経営者が連帯保証人になっているケースでは、新しい株主に連帯保証人を書き換える必要性が出てきます。
しかし、連帯保証人の書き換えには時間がかかるので、売り手側に銀行借り入れがある場合には、M&Aをスムーズに完了させられない恐れがあります。したがって、実際には新しい株主が株式譲渡のタイミングで、銀行に対して一括返済をするケースが多くなっています。
従業員については、買収されたからと言って働き口を失うわけではありません。一般的には、全ての従業員が買い手側に引き継がれ、これまでとあまり変わらない就業条件で雇用されるケースが多くなっています。
経営者である社長については、自社の代表取締役を辞任するケースが一般的です。売り手側の新しい社長に関しては、買い手側の企業から新たに派遣されてくるケースが多い傾向にあります。
ただし、いきなり社長が引退をすると、事業や業務に支障を来す恐れがあります。そのため、「会長・顧問・相談役」といった代表権のない役職で、引き継ぎが完了するまで引退をしないケースも珍しくありません。
一般的には上記のようなケースが多くなっていますが、従業員や社長の処遇については、M&Aの契約内容によって変わってきます。例えば、そのまま引き続き社長を任せられるケースもあるので、M&Aの売り手側は細かく確認しておく必要があるでしょう。
一般的なM&Aでは、買い手側は取引先を獲得することも踏まえた上で、買収を検討しています。そのため、M&Aを成約させる上では、取引先との継続取引が条件に含まれているケースが多くなっています。
ただし、スムーズにM&Aが成約したからと言って、取引先に影響が及ばないわけではありません。代表取締役の変更、企業体制の変更によって取引先が戸惑ってしまう恐れがあるので、決済までの間に売り手・買い手の2者が取引先に挨拶回りをする必要があるでしょう。そして、その場で継続取引の相談をし、引き続き良好な関係を築いていくことになります。
しかし、取引先と何らかの契約書を交わしている場合は、M&Aによって契約に影響を及ぼす可能性があるので、事前に契約内容を確認しておく必要があるでしょう。
負債を抱えている中小企業であっても、M&Aの成約時に会社に現金・預金が残っている可能性はあります。この現金・預金の扱いについては、株式譲渡・事業譲渡のどちらの手法なのかによって少し変わってきます。
株式譲渡のケースでは、会社に残っている現金・預金の扱いは、M&Aの前後で変わりません。現金・預金はそのまま会社に残ることになり、売り手側の経営者はその現金・預金を残したまま、買い手の処遇に従うことになります。
事業譲渡のケースでも、基本的には現金・預金が移動することはありません。ただし、M&Aの契約を締結するにあたって、この現金・預金の扱いが契約内容に含まれている場合は、その内容に従って扱うことになります。
また、会社の現金・預金だけでなく、個人資産についても同様のことが言えます。個人資産はあくまでも経営者個人の所有物となるので、特別な契約が交わされない限り、M&Aによって所有権が移ることは基本的にありません。
M&Aの成約後に起こる変化の中で、経営者として特に気になる部分は、やはりさまざまな金銭の扱いでしょう。M&Aはひとつの経営戦略であるため、お金に関する疑問は早々に解決しておく必要があります。
また、環境や状況が変わってからもスムーズに事業が進むように、「ヒトの流れや立場の変化」も事前に確認しておくべきポイントです。取引先や従業員、顧客などを戸惑わせないように、M&Aを検討している経営者の方は、早めにM&Aの成約に向けた準備を進めるようにしましょう。
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