M&Aの買い手側は、成約後にさまざまなリスクが生じる恐れがあるので、事前にリスクの内容と対策を調査しておく必要があります。売り手側が現時点で抱えているリスクだけでなく、買収後に状況が大きく変わることで、新たなリスクが生じる可能性もあるでしょう。では、そのようなリスクを避けるには、事前にどのような項目を分析しておくべきなのでしょうか?
ここでは、M&Aで買収に失敗しない為に分析するべき項目を、「財務会計・ビジネス・法務」の3つに分けてご紹介していきます。
財務会計の項目で分析しておくべき情報としては、
【1】決算書3期分の推移と直近の試算表
【2】売上高や経常利益(営業利益)、負債額の有無とその内訳
【3】不正や簿外債務の有無
の3つが挙げられます。対象企業の将来性を予測する上では、財務会計の分析が欠かせません。では、上記【1】~【3】に関して、具体的にどのようにチェックするべきなのか解説していきましょう。
決算書を確認すれば、対象企業がどの事業に力を入れており、どの事業で多くの利益を生み出しているのか把握することができます。ただし、1期分の決算書を確認するだけでは、「対象企業がどのように成長・衰退してきたのか」を分析することができません。
そのため、決算書については複数期分、少なくても直近3期分は確認することが望ましいでしょう。3期の間に、買収の対象となる事業がどのような業績であったのかを分析することが大切なポイントになります。
また、直近の「試算表」も、事前に分析しておくべき項目です。直近の試算表を分析することで、対象企業が当期にどれぐらいの利益を生み出しているのか、どのような資産・財産を保有しているのかを正確に把握することができるためです。
さらに、決算書と試算表を確認することで、「粉飾決済」を行っているかどうかも分析できるでしょう。特に、資金繰りに苦労している対象企業であれば、金融機関から融資を受けるために粉飾決済を行っている可能性もゼロではありません。
そのような事実を知らずに買収すると、後のトラブルにつながりかねないでしょう。そのため、決算書と試算表はチェックが欠かせない項目と言えます。
これらの項目は、対象企業の業績を明確に把握できる情報となります。売上高は、企業の経営を大きく左右する数値であり、売上高が伸びなければ企業は成長していきません。したがって、数年分の売上高を確認し、どのような推移を辿っているのかをしっかりと分析する必要があります。
次に、経常利益とは営業収益に営業外収益(受取利息など)を加算し、営業外費用(借入利息など)を差し引いた数値を指します。つまり、売上高からコストを差し引いた指標となるので、経常利益の分析は対象企業の経営状態を把握することにつながります。
また、M&Aの手法が株式譲渡の場合には、買い手側は負債も含めて引き継ぐことになります。したがって、負債額の有無とその内訳も、細かく把握しておく必要があるでしょう。仮に売上高が多い企業であっても、負債額が多ければ経常利益は低い数値となります。
強引な黒字調整や粉飾決済などを行っている企業を買収すると、買収後にさまざまなトラブルに見舞われてしまう恐れがあります。そのため、財務会計の健全性、つまり不正を行っていないかどうかは、確実に分析しておくべき項目と言えるでしょう。
また、「簿外債務」にも注意が必要です。簿外債務とは、貸借対照表に記載されていない債務のことを指します。簿外債務は会計処理(故意)だけでなく、デリバティブや保証によって偶発的に生じる可能性もあるので、買い手側は細かく分析しておく必要があるでしょう。
ビジネスの項目で分析しておくべき部分としては、
【1】内部的な強みと弱み
【2】外部的な機会と脅威
の2点を挙げることができます。ビジネスの項目では、対象企業の事業内容や財務状況を分析し、将来性のある企業かどうかを判断することが大切になります。
内部的な強みとは、企業内部のどのような点が優れているのかという部分です。例えば、
・優良な取引先が存在している
・従業員全体のスキルが高い
などは短期間で確実に構築できる部分ではないので、企業にとって大きな強みとなり得ます。ほかにも、労働環境(機材など)が優れている、大きな利益につながる特別な顧客がいるなども、内部的な強みに含まれるでしょう。
しかし、その一方で
・財務内容が安定していない
・従業員の育成環境が整っていない
・従業員の多くが定年間近である
などの弱みが存在していれば、それは買い手側にとって大きなリスクとなります。そのため、内部的な強みと弱みを比較し、総合的に対象企業の内部が優れているのかどうかを分析・判断することが大切になります。
外部的な機会とは、対象企業が行っている事業の「チャンス」を意味します。例えば、
などは、買い手側にとってメリットになり得る外部的な機会と言えるでしょう。魅力的な外部的な機会を多く持っている企業ほど、将来的に業績が向上する可能性があります。
しかし、その一方で外部には「脅威」も存在しています。代表的な脅威としては、
などが挙げられるでしょう。特に、今後大企業が参入予定である場合には、寡占化によって業績が振るわなくなる恐れがあります。そのような分析も、M&Aの成約前にしておくべきでしょう。
法務の項目で分析しておくべき情報としては、
【1】法令遵守
【2】過去の契約書
の2点が挙げられます。対象企業の法務は、「企業の健全性」を判断するために重要な情報であり、それを分析することは後のトラブルを回避するために必須です。
法令を遵守していない企業は、健全であるとは言えません。決算書はもちろん、営業活動や資金捻出などの面で法を犯している企業を買収すると、大きなトラブルを招いてしまう恐れがあります。考えられるトラブルとしては、
などが挙げられるでしょう。1度のトラブルで企業の業績が傾くことは、決して珍しい話ではありません。そのため、さまざまな部分において法令を遵守しているのかを分析し、健全性が低い対象企業である場合は、買収を見送る選択肢も考えるべきでしょう。
企業は経営を続ける上で、さまざまな相手と多くの契約書を交わします。その契約を基に事業を進めることになるので、ほとんどの企業は契約書の内容にこだわった上で、契約を締結しています。
しかし、ビジネスの世界においては、一方が不利な立場になる契約も存在しています。そのような契約を結ばされている対象企業を買収すると、買い手側は大きな損失を被りかねません。
また、契約の内容からも、その企業の健全性を分析することができます。したがって、対象企業がこれまで携わってきた契約については、その契約書の中身を確認することが望ましいでしょう。
M&Aの買い手側は、対象企業の財務会計・ビジネス・法務の3つの項目を細かく分析する必要があります。当然、分析には時間やコストがかかりますが、対象企業の将来性やリスクを明確にすることは、M&Aを成功させる上で必須の条件と言えるでしょう。
今回ご紹介した内容を参考に、対象企業のどのような部分を重点的に分析するべきなのか、慎重に判断するようにしましょう。
簿外債務 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B0%BF%E5%A4%96%E5%82%B5%E5%8B%99
「営業利益」「経常利益」「純利益」の違いって? | THE PAGE(ザ・ページ)
https://thepage.jp/detail/20131217-00000007-wordleaf
決算書.com:決算書の読み方・使い方・見方がわかる!
https://www.kessansho.com/general/study/02_02.html
試算表の見方徹底解説!これで会社存続に足りないことが一目瞭然
http://keiei.freee.co.jp/2014/10/30/shisanhyo/
試算表 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A9%A6%E7%AE%97%E8%A1%A8
「粉飾決算」はどのようにして見破られているのか? その1 | 中小企業特化の経営改善・事業承継コンサルティング会社エクステンド
http://www.extend-ma.co.jp/20110613/
会社でとられる【罰金】はどこから違法? - NAVER まとめ
http://matome.naver.jp/odai/2138068815169759801
企業犯罪 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%81%E6%A5%AD%E7%8A%AF%E7%BD%AA
M&A会社売却の「交渉」の重要性 | M&A・国際法務に強い弁護士はM&A総合法律事務所
http://tokyo-malaw.jp/ma_negotiation_jyuyosei/
M&A売却を中止したいオーナー様 | M&A・国際法務に強い弁護士はM&A総合法律事務所
http://tokyo-malaw.jp/ma_stop/
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