M&Aの売却価格を決める際には、対象企業のバリュエーション(企業評価)が重要な参考情報となります。必ずしも売却価格がバリュエーション通りの金額になるわけではありませんが、対象企業の資産・事業の適切な価値を見極めるために、バリュエーションは必要不可欠な情報と言えるでしょう。
では、M&Aの中でも事業譲渡では、どのようにバリュエーションが算出されているのでしょうか?ここでは、事業譲渡におけるバリュエーションの算出方法についてご紹介していきます。
事業譲渡における対象企業のバリュエーションは、一般的に以下の式を用いて算出されています。
事業価値=対象事業の資産時価+(実質営業利益×3)
上記の式の「対象事業の資産価値」とは、売り手側が現在行っている事業の価値のことを指します。一般的にM&Aでは、買い手側が売り手側の事業を引き続き進めることになるので、買い手側にとって売り手側が現在行っている事業の価値は軽視できないポイントとなります。
また、上記の式の「実質営業利益」とは、企業の本業による利益のことを意味します。単に売上のことを指すのではなく、算出するには売上から人件費や材料費などの経費を差し引かなくてはなりません。
対象事業の資産時価を算出する際には、まず決算書にある「固定資産減価償却内訳明細書」の金額を参照します。減価償却とは、経年によって価値が下がる固定資産を取得した場合に、その固定資産の耐用年数に応じて少しずつ会計処理をすることです。減価償却の対象となる具体的な固定資産としては、
などが挙げられるでしょう。固定資産減価償却内訳明細書は、これらの固定資産の減価償却をまとめた書類のことを指します。
一般的に、この明細書に内訳を記載する際には「簿価」を使用します。対象事業に関する固定資産の簿価を「時価」に修正すれば、対象事業の資産時価を算出することができます。
実質営業利益を算出するためには、まず営業利益を明確にする必要があります。一般的に営業利益は、売上総利益から諸経費を差し引くことによって算出されています。
ただし、売上総利益の対象となるのは、売り手側企業の本業のみとなります。つまり、株式の売買や保有、公社債など、本業以外によって生じた利益は、営業利益を算出する際には含まれません。
では、売上純利益3,000万円、人件費400万円、管理費100万円のA社を例に挙げて、実際の営業利益を算出してみましょう。
3,000万円-(400万円+100万円)=2,500万円
上記の2,500万円がA社の営業利益となりますが、実質営業利益はさらにこの金額に、「節税対策額」を加えたものになります。A社の節税対策額を500万円とすると、実質営業利益は以下のように算出することができます。
2,500万円+500万円=3,000万円
ここまでを準備すれば、後はバリュエーション算出の式に当てはめるだけで、対象企業の事業価値を算出することができます。では、資産時価額3,000万円、営業利益2,500万円、節税対策額500万円のA社を例に挙げて、具体的な算出方法を見ていきましょう。
3,000万円+(2,500万円+500万円)×3=1.2億円
上記の式から、A社のバリュエーションは1.2億円であることが分かります。ただし、M&Aの売却価格は基本的に双方の合意額となるので、A社の売却額が必ずしも1.2億円になるわけではありません。
買い手側の企業次第では、1.2億円を上回る可能性もありますし、当然下回る可能性も考えられます。仮に、バリュエーションがマイナスである赤字企業・債務超過企業であったとしても、売却価格がプラスになるケースは実際に存在しています。
M&Aには「株式譲渡」と呼ばれる方法もありますが、株式譲渡と事業譲渡では、バリュエーションの算出方法に違いが見られます。上記のように事業譲渡では「事業価値」がバリュエーションとなりますが、株式譲渡では「株主価値」がバリュエーションとなります。
このような違いがあるので、株式譲渡におけるバリュエーションを算出する際には、事業の資産時価額を使用することはありません。事業の資産時価額ではなく、決算書の純資産額を参照とする「時価純資産額」が使用されています。
また、株式譲渡におけるバリュエーションでは、実質営業利益ではなく「実質経常利益」が使用されることもあります。このような違いが見られるので、バリュエーションを算出する際には正しい算出方法を選ぶようにしましょう。
M&Aでは、必ずしもバリュエーション通りの売却金額となるわけではありませんが、バリュエーションを算出しておくことによって、「M&Aをするべきか否か」「M&Aをする場合、どのような方法を選ぶべきか」などを見極めることにつながります。M&Aを検討している経営者の方は、まずは自社の適切なバリュエーションを算出することから始めてみましょう。
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